新聞歌壇、また他から拾う大震災の歌
本木 定子

ペットボトルの残り少なき水をもて位牌洗ひぬ瓦礫の中に 吉野 紀子
みんなさ迷惑かげっから水飲まねようにしてんだええがら飲まっせ 斉藤 一郎
零歳や一歳もある悲しさの棺を作れば如何に小さき 田村 精進
本当は不安に蓋してきたのかも東海村の四季をめでつつ 原  里江
隊員の合掌する間にまた転ぶ掘り出されたる泥つき位牌 鈴木 理夫
今日もまた紙面埋める東北の死者の名を読む年齢を読む 浜野寿美子
原発に汚染されたる草を食む人なき野辺に放たれし牛 植原 昭士
俺も牛も死ねというのか原発の警戒区域の酪農家哭く 舟部  勲
朝はまだ掘られしままの穴なるも棺納めて夕に静もる 村岡美知子
屋上に打ち上げられて傾きし難破船にも四月の光 宮田ノブ子
ひと月を体育館に過したる亡骸三百体運ばれゆきぬ 三船 武子
油ねべ車うごがね雪降るべはだしでどごも逃げらんねべさ 香島之魯鈍
石巻大川小学校の哀しみよ幼き七十四の魂津波に水漬く 根岸  亮
かりそめに点呼をとれば七十四の声還るべしはるかの海原より 根岸  亮
ぼうぼうの髭面市長泣きながら「がんばろうな」と部下を励ます 山内 義廣
ほの白くいちげの花の群れ咲けるこの山里に放射能降る 川本 範子
ガス通じ一ヶ月ぶりの風呂なれどそこそこに出づ余震起こりて 小野寺寿子
言の葉のお互いさまに守られて給水車待つ雪に濡れつつ 安腰三恵子
ようやくに見つけし遺体焼く親のこころに寄らん火葬経挙ぐ 八乙女由朗
世界一安全と豪語する原発ならば今後は日比谷か銀座に建てよ 佐久間 晟

 三月十一日夕方、姪からメールが入る。「オバチャンモウダメ、コワイ」姪は東松島に住み、小学二年生と二歳の幼児をかかえ、水が押しよせ始め、住居の二階に上っているという。水は庭に押しよせ始め自動車がプクプク浮き上がってきているという。そしてその後、携帯電話も一般の電話も繋がらなくなってしまった。連絡がついたのは五日後。一階の天井まで水が上がったが、その日遅く帰ってきた夫と一緒に引き始めた水の中を漕いで、小学校に避難したという。身内のことはさておき。
 この度の震災でもっともおそろしいのは原子力発電所からの放射能漏れではないかと思う。人間、土地、動物、植物、地上のあらゆるものを侵してくる。平和に暮らしている人をいずこなりと行けとばかり、着のみ着のまま自分の家を離れなければならない。無法な!と思いつつその土地の人はわが家に戻れるのはいつなのだろうか。察するに余りある。どこの誰もが心穏やかに暮せることを願うばかりである。

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