地震あとの
大 和 類 子

放置せし庭はみどりの猛きなか落ちし瓦のひとつが残る
くれなゐの木槿の花は咲き満ちてひぐれは大地を傷つけやまぬ
ここは何処どこゆめかうつつかうすら闇遠き声声海に呑まれて

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  日  傘
本 木 定 子

透きとおる雨傘に青き葉のふれて豊かなるもの授かるかとも

    
かばかりの食事に娘と孫とゆく幸せこれに勝るものなく
花多き初夏の庭なり夜の縁を開けば香気ひそかに入り来
    

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  なじょすんだ
林  順 一

渇くとも鳴くんでねえぞ雨蛙しばし我慢だ放射能雲だ

    
さすけねえ金だ仕事だ電気だど おどげでねえど原発事故は
あかあかと日の沈みゆく青田原ただひえ草の蓬けるままに
    

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  夕ぐれの街
原 田 夏 子

文具とて時代とともに品変り握り寿司かと思ふ消しゴム

    
撒水の心地良きにや夕ぐれの庭木は姿勢をおのづと正す
夕ぐれの街は優しと思へども大地震なぬの傷のこる店みせ
    

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  地震五首 他
西 村 真 一

夜な夜なの地震が眠り妨げて朝の寝覚めの心地悪しかり

    
地震にて我が立つ地面が真二つに割れなば我は挟まれ死なむ
我が窓の西の岡辺に二人の孫が居ると思へば声を聞きたき
    

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  神話は神話
丹 治 久 惠

はずが無い はずであつたとも無念噛む核の放射能が列島に降る

    
線量計とふ計器知らずに過ぎてこし無知なる罪を自らに課す
夏の扉ばつと開かれあの日までの耀く海に立ちかへらしめ
    

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  朝 の 光
鈴 木 昱 子

夜明け待つ心に沁みて窓に差す藍の音あるごときうつろひ

    
余震つづく夜の大いなる月読は物言ふさまに人を照らせり
闇ながら巨き力になぶらるる不条理をこの地震なゐに知りしか
    

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  子規研究の会
佐 藤 淑 子

緊張は何時しかほぐれ晴れ晴れと笑ふわれあり久しぶりなる

    
ひそやかにわれの心に育て居る子規像この夜成長したり
震災の後に生れし緑児の笑ふを見つつ未来を信ず
    

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  瓦礫に日がさ
熊 谷 淑 子

震災のガレキを積んだ仮置き場かすかに沈む音がしている

    
あの日から止まったままの時間なり行方不明の沿岸の友
鉢底にへばりついていた蟇蛙かた目をあけて吾を見ている
    

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  メ コ ン 川
菊 地 栄 子

小舟よりモンキーバナナ手渡し来あどけなき児に哀しみはなし

    
托鉢の僧侶に白きいい捧げあの世の母の供養となしぬ
見るべきを見すごしきしや地雷踏む酷きニュースを帰国し聞きぬ
    

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  雪 紋 の 原
菊 池 映 一

雪紋の原広らかに前後まえうしろきらら燦たり花分蛇利華プンダリーカ

    
高齢になりて死ぬるも生れざる無の界もまた等しき如し
いねがたき夜は安らかに抱かれん神のふところ永遠とわなるごとく
    

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  思 い 出 も
菅 野 美 子

思い出も瓦礫と共に撤去さる見送るふたりしばし動かず

    
何事も無かったような今朝の海風景のみが置き換えられて
誰も彼も頑張っているこの町に「がんばろう」の文字の溢れる
    

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  大漁唄ひ込み
菅 野 哲 子

ずつしりと遺骨抱きぬ百ヶ日近く待ちしよ逢ひたかりしよ

    
介護など受けず死にたし口癖の君ありし日よ津波は攫ふ
いくばくのあとさきなれば待ち給へ彩雲あかくあかくかかれり
    

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  福 島 爆 発
桂  重 俊

中曽根の二百三十五億の予算U二三五処理するための

    
原発に騒然たれど見直しに言及せしは未だ菅のみ
計らざる大凶事まがごとに立つ噴煙けむり人無き米機の撮りし写真うつしえ
    

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  黝 き 波
伍 井 さ よ

訥訥と舞ふ風花のく息の遠去る疾く死者を見おくる

    
仰ぎつつ紅葉狩らむと手をいれし天空界はうろこ雲なる
泡立草の黄色ただよふ隣家となりやの無人の窓に手の揺れてをり
    

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  馬 車 の 鈴
有 路 八千代

言ひわけの扉ひらけば忽ちに洪水とならむかたくなに閉づ

    
独り生き人におくるることになれ老いの生きざま今ぞ知りたり
吐息からいま生れたるしやぼん玉これでいいのだ何も言ふまい
    

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