平成15年5月22日 於白石かんぽの宿

賦何草連歌 百韻


   白石やしのぶ景綱薄暑なる 重俊
   みどり重なる遠き山並 定子
   笑ひ声まひるの角を曲りきて 類子
   どこまであがる赤い風船 久恵
   独りごつ今宵の月の冴えたれば 潤子
   虫しぐれする庭の闇濃し 健
   草の実の匂ひのこれる小径ゆく 八千代
   中空にとぶ秋のつばくら 久仁子

 ウ 描きたる楕円のなかに暮れそめて さよ
   石蹴の石白き沈黙 夏子
   返送のたより受くるもせんなけれ 康子
   縁なきものと思ひゐるらむ 武夫
   単線の鉄橋はるか朧月 哲子
   春の水満つ広き耕土に 幸子
   芽吹きたる木々のかたちのあどけなし 由朗
   花を啄む椋鳥のこゑ 重俊
   たどり着くみちのく出湯硫黄の香 類子
    は さ
   稲架を車窓の眼に追ひたりき 久恵
   草紅葉ひかりをとどめゐるごとし 久仁子
   夕べは冷ゆる薄墨のいろ 八千代
   萩のむれ揺らして風の通りけり 康子
   ひとよ
   一生は寂し長らふる身に 夏子

二オ 夜の電話話し中にて待たさるる 潤子
   柱時計は十二時をうつ 八千代
   雪の中かぼちやの馬車へシンデレラ 武夫
   冬ざれの野辺ひとり佇む 哲子
   夕焼をふたりして見し記憶あり 定子
         いも
   埓を結ひたし妹のめぐりに 夏子
   たそがれに焦るるこころいや燃えて 健
   蚊遣火を追ふ縁台の端 さよ
   月出でて門に涼める小家族 類子
   根付の鈴が鳴らすすぎこし 久恵
   いづくまで羊の群れとさまよふや 健
   お宮参りに老いも集ひて 哲子
   留守番の仕事を記し出づる日よ 久仁子
   廃屋のあと見馴れてさびし 定子

二ウ うらうらと空ひろがりぬ草河原 幸子
   わが懐をのぞく子雀 由朗
   目をやれば陽炎たちけり垣根越し 類子
   しやぼん玉吹く午後をひとりに 久恵
   朝顔の花しぼませる日に向きて 武夫
   覆面の騎士遠ざかりゆく 幸子
   小坊主の鍾木の音のたかきとき 夏子
   遍路の衣のいまだ真白し 定子
   りんだうに思ひかなはぬ便り秘め さよ
   初恋の人の訃をきく夜寒 重俊
   まぼろしの君に従きゆくすすき原 八千代
     かげ
   月の光さす石につめたく 康子
   黄金田を刈りはじめたる農夫あり 由朗
   疲れもみせず晴れやかにして 潤子

三オ 霜柱ときに煌めく踏みしあと 久仁子
   沼に白鳥声交しゐる 類子
   焼むすび店より買ひていそぎ足 さよ
   卒業式に文を手渡す 武夫
   雛まつり酔はせてみたき君にして 定子
   沈丁の香に顔を見合はす 久恵
   攫ひゆく人待ちかぬる菜の畑 健
   二十四時間飛行の窓に 哲子
   冴えかへる月を仰ぎて詠みあへる 久仁子
   夜を徹しての豊作祝ひ 類子
   ひたすらに砧打つ音遠くより 幸子
   落つる銀杏めくるめきつつ 由朗
   野ざらしの廃車おほひて蔦もみぢ 八千代
   うらやましきと思ふ数々 夏子

三ウ 山門に作務衣の僧の竹箒 健
   柚子湯の舟にきみと揺れつつ さよ
   雪の野を行きてもどらぬ女男のこと 久恵
   「稲村の火」の新聞の記事 定子
   春の月ほのかにありて誘はれ 潤子
   かりがね帰る声の透れる 武夫
   稚児たちも御輿かつぎぬ草おぼろ 八千代
   話し合ふらし蕨餅わけ 康子
   茅葺きの屋根の高さに雲白し 健
   海辺の砂を素足に駈けて さよ
  かきつばた
   杜若愛せし花かうたびとの 久仁子
   空蝉ひらふてのひらのなか 類子
   誰が来しか大声に呼ぶ丘のうへ 幸子
   そしらぬ猫ののそりとゆきぬ 重俊

名オ 月影を踏みし遊びのもはやなく 定子
   女のこころそぞろ寒けれ 夏子
   わけあひて切りしれもんを共に食ぶ 健
   若き二人の虫干したのし 幸子
   まぎれゆく鬼灯市の暮れかかり 久恵
   防空壕の青春はるか 八千代
   亡き父母のひと世かなしむ旧き室 さよ
   年に一度の連歌の旅に 重俊
              こう
   北を指し何を探せる独り行 類子
   山のあなたに待つもの追はむ 康子
   さはさはと牡丹雪降る朝のみち 武夫
   動かずにをりだるま炬燵に さよ
   絨緞を新しくせむ日脚伸ぶ 夏子
   野菜作りもいそがしきこと 定子

名ウ むすびたるおみくじの白吹かれゐる 幸子
   巫女すがすがと歩みはじめぬ 武夫
   木瓜の花終りて地をば赤く染む 類子
           とき
   風の届ける流氷の季 久恵
   合格を知らせて孫の訪ねくる 重俊
   うつぎ群れ咲く沢の斜りに 幸子
   かなたより歌声きこゆをりをりに 久恵
   充ち満つ韻の宴はれやか 類子

 


重俊 六 健 七 康子 五 定子 八 八千代 七 武夫 七 類子 十
久仁子 六 哲子 四 久恵 九 さよ 八 幸子 八 潤子 四 夏子 七
由朗 四        


島田幸造氏を偲ぶ


 二〇〇二年十一月十九日、島田幸造氏が心不全で亡くなった。生前「体の調子は?」と聞くと「病気のデパートみたいなもんだから」と言っていたが、今年四月で満八十歳という齢は今の時代ではもっと活躍が期待される年齢であった。仙台歌話会結成当初からの会員であり、運営に歌評に貴重な意見を出してくれた。
 一方コスモス宮城支部長の吉川禎祐氏他界の一九八八年十二月以降、コスモスの県責任者として県芸術協会、県短歌クラブ等において眼疾、糖尿病と闘いながらその重責を果たしてこられた。島田氏には一九六九年に刊行の歌集『風鶴』がある。これは生前唯一の歌集となった。

 病院を抜け出してきて日盛りの明るさ盗む思ひにあゆむ
 眼裏に血の色なして透る日を病みて浴びつつときにをののく
 艦隊のごとくともりて闇に浮く工場は遠きしづけさに満つ
 みどり子の薄きまぶたに血のさすを見つつこころのあたたまりくる
 宿直にひとり聞きゐるラジオにて落語の下げのときを経て可笑し


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〜前号掲載以後〜


毎月大体第四日曜に超結社の歌会および研究会を行って研鑽に励んでいる。
前回以後の分は次の通りである。(桂重俊記)

歌話会の歩み
2002・ 8月 歌会
9月 「北杜歌人」第十一号合評会
 
10月
歌会
 
11月
歌会
 
12月
総会、懇親会
歌合「冬の歌」 於秋保 蘭亭
2003・
1月
歌会
2月
歌合「春の歌」
 
3月
歌会
 
4月
島田幸造氏を偲ぶ
 坂田 健 大和類子 桜井千恵子
 
5月
一泊連歌の会 於白石かんぽの宿
 連歌「賦何草連歌」
 
6月
歌会

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