昭和天皇と御親閲

 配属将校はもちろん一層用の軍装で、校長たちはモーニングにシルクハット。おそらくこの帽子は通達によって新調したと思うが、初めてかぶるシルクハットに「電気ナマズ」校長も少々テレ気味だった。
 整列を終え、午前十時の奉迎を待つ。九時四十分、一同、抜刀、著剣(つけけん)を行い、いよいよ陛下の御出座となる。十時に軍楽隊による「君ヶ代」奏楽と共に、二重橋を渡る陛下のお姿が現われる。愛馬「白雪号」にまたがった陛下のお姿はまさに日本軍国主義全盛を彩る名画の一瞬。その荘厳さ華麗さは筆舌に尽せないものがあった


恋人は空から降りてきた

 目的地であるY駅に着き、私が下車すると彼女も続いて下りて来た。彼女はここの村の生れであることを初めて知った。
 駅を出て北に向う集落の一本道を二人で歩く形になったので私は始めて口を開いた。
「朝日旅館という所に行きたいのだが、そこ知ってますか」「ああ、その旅館なら私の家の近くです。案内してあげましょうか」と彼女は答える。街道のまわりは松並木となり、点々と藁ぶき屋根の農家が立ち、うしろ側は黒々と段々畑や水田が続く。畑はほとんど刈取前の麦畑だった。春の陽はすでに沈み、燈火管制下の明りはどこも暗く、彼女の白い顔がぼんやりと見える程度だった。 二人は別に会話することもなく、並んで歩いたが、旅館に着く頃にはピッタリと肩を寄せ合うようにして歩いたのは若者たちの間にともに好意の気持が急速に芽えたためであろう。




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