いって見ればボクも野球の監督さん

 その夜仙台の彼女にかけた電話の向うでN子は意外と冷静だった。「先生、前にも言ったでしょう。息子が横浜ベイスターズに入ったって」「いま分ったの」さも当り前だという風に受け答えする。ボクは面目を失して沈黙すると「でも先生がうちの子を見てくれるなんて嬉しいワ」とも言ってくれた。
その中に彼女の主人が代って電話に出て会話する。古川市出身と自己紹介したが、おだやかそうな人物で「先生のことは前から本で知っていますよ」と、初対面とは思えぬ雰囲気での応対だった。ボクはすっかり嬉しくなって、「N子のことを頼みますよ。至らぬ者ですが、根は真直で心も身体も健康そのものですから」と言う。あとで考えて、娘でもないものを、しかも五十女をつかまえて「至らぬ者」もないものだ。ボクは思わず苦笑してしまった。


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